構造の話

耐震基準の勘違い 法律通りなのに耐震性が不足する?

うーん、不安だ。うーん、不安だ。
どうした次郎。なにかあったんか?
ああ、兄さん。いや、昨日熊本の震災を振り返る番組をテレビで見たんだけど、不安になっちゃって…。うちの家を買った時は外壁やキッチンをどうするかってことばかり考えてて、耐震性のことはあまり考えてなかったものだから…。
なるほど、それで心配してたんか。お前の家はまだまだ新しいから大丈夫だぁ。兄ちゃんの家なんか地震どころかトラックが前を通るだけでグラグラ揺れて倒れそうになるくらいだ。ガッハッハ。
兄さん、それ、全然なぐさめになってないよ…。

目次

参考文献

この記事は日経ホームビルダー編「なぜ新耐震住宅は倒れたか」を参考に記述しています。

この記事はこんな方におすすめ

こんな方におすすめ

  • 一戸建ての家を建てたいと考えている
  • 耐震等級のことがよくわからない
  • 有名な設計士さんや工務店に頼めば安心だと考えている
  • 地震保険をかけておけば安心だと考えている

現行の耐震基準について

日本の耐震基準は大地震と共に強化されてきました。

現行(2021年5月)の耐震基準が整えられるまでに大きな影響のあった地震は2度。

1つ目は1978年の宮城県沖地震。この地震の後、1981年に新耐震基準が定められました。

2つ目は1995年の阪神淡路大震災。その後2000年に基礎構造などに関する法改正が行われました。

1981年以前の法律や建物は「旧耐震」、1981年以後は「新耐震」、そして「2000年基準」と呼び、それぞれを耐震性能の面で“別物“として区別しています。

しかし、2016年の熊本地震をきっかけに、今また法改正の議論が活発になってきています。

元々、建築基準法では数百年の1度の間隔で発生する巨大地震においては「倒壊しないこと」を目指して基準が作られています。

しかし、2016年の熊本地震では、想定されていなかった事態が起こりました。

震度7×2の衝撃

2016年4月に発生した熊本の震災では、熊本市東部の益城町で震度7の地震が2度計測されました。

前震で震度7、1日後の本震で再び震度7というこれまでに発生したことのない大地震だったのです

最終的に倒壊した建物の多くは1度目の前震においては中破〜大破しつつも多くが耐えていました。つまり、ここまでは現行の建築基準法の狙い通りだったわけです。

しかし、その後の本震では、多くの建物が前震による大ダメージを負ったままであったため、数多くの建物が耐えきれず、大破または倒壊してしまいました。

これまでの震災においてはしぶとい強さを見せていた新耐震基準の家どころか、2000年基準の家までもが倒壊するなど甚大な被害を受けました。

しかも熊本地震は直下型の地震です。

東日本震災のようなプレート型地震とは異なり、日本のほぼ全ての地域において発生する可能性がある地震なのです。

国民の命や財産を守るべく作られた建築基準法ですが、1度までの大地震にはある程度耐えて守ってくれますが、2度目が発生した際には耐えられないという法律の限界が示された形です。

耐震等級2の家でも倒壊する

耐震等級とは、建物の地震に対する強さ=耐震性を示す基準の1つです。

品確法という法律に定められていて、等級1が最低基準、等級3が最高基準です。

等級1は現行の建築基準法をギリギリ満たす耐震性能、等級2はその1.25倍等級3は1.5倍になるよう定められています。

具体的には、等級2は震度6強〜7の地震でも補修することで住み続けられる程度。

等級3は「軽微な」補修で住み続けられる程度とされています。

しかし、熊本地震では耐震等級2の建物が倒壊してしまいました。

このニュースのインパクトは当時、非常に大きなものでした。

熊本地震以前の建築業界では等級1が「普通」、等級2で「上等」、等級3は「やや過剰」と見られる向きがあったため「施工不良などで等級2を満たしていなかったんじゃないか?」などの憶測を呼びましたが、その後の調査でそういった可能性は否定されています。

設計的にもそれほど無理がなく、施工もきちんと行われた耐震等級2の建物であっても、条件次第では倒壊する可能性があることが実証されてしまいました。

建築基準法通り、あるいは多少性能向上させた程度では耐震性能が不足する可能性があるということです。

対策は?

ひとまず考えられる対策としては、耐震性能に関しては等級3を取得するということが有力です。

等級3の中にも構造計算の方法が2種類存在し、その上性能的な優劣があるためにややこしいのですが、少なくともこれまでの地震においては耐震性能の面で劣る「品確法」の計算による等級3であっても倒壊は免れていることが確認されています。

そのため、耐震性能については現在の等級3を最低基準にするべきだ、という意見を目にすることが増えています。

また、耐震性能の向上に加えて「制振」の装置を設置する方法も有力であると考えられています。

制振とは、地震による横方向のエネルギーを減衰させてしまう手法のことです。

誤解を恐れずに言えば、震度7の地震を震度6強程度に弱めるための装置と考えてもらうとわかりやすいかと思います。

まとめ

今回は現行の建築基準法と、耐震性における限界について書きました。

熊本地震のような震度7の地震が連続して発生する場合には、現行法に基づく建物であっても、多くの場合住み続けられない程のダメージを負ったり、倒壊してしまったりするという可能性があります。

耐震等級には段階があり、最低レベルの1が想定している状況は大地震において倒壊まではしないものの、住み続けるのは困難です。

また、等級2であっても、条件次第で倒壊してしまう可能性があります。

その一方で、最高レベルの等級3の建物は倒壊せず、住み続けられる状態であったことが確認されています。

こうした流れから、現在は耐震等級3の基準を新たな最低基準とすべきであるという主張が湧き上がっています。

現代の家づくりでは長寿命化が図られており、長期優良住宅の定着が進みつつあります。

しかし、建物が長寿命かすればするほど、地震に被災する確率は高まっていきます。

地震大国である日本においてはほとんどの地域でそのリスクから完全に逃れることは困難ですから、人命を守る為に規制が強化されることは歓迎すべきだと思われます。

また、制振ダンパーのように地震のエネルギーそのものを減衰させる仕掛けもかなり有効です。

「安全性」は住まいを考える上で最も大切な要素の一つです。

この記事によって少しでも多くの方が正しい知識を得て、耐震性に優れた家を建てていただけるよう願っています。

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